「ウチは銀行だから、DXなんて無理ですよ」
「金融庁の監視が厳しくて、新しいことができません」
金融機関の経営層から、こんな言葉を何度も聞いてきました。
気持ちはわかります。金融機関は確かに「厳しい規制」の中にいます。
顧客の預金を扱い、市場を動かす責務があり、一度事故ったら社会全体への影響も大きい。
だからこそ、以前は「変えるな、守れ」という経営姿勢が主流でした。
でも、2020年代に入ると、その風向きが変わりました。
金融庁自体が「AIやクラウドを使え。規制で縛るから安心して攻めろ」という立場に変わったんです。
つまり、「規制」はDXを止める理由ではなく、安心してDXを加速させるための「ガードレール」に変わったということです。
「規制」という誤解を解く
金融機関で「規制が厳しい」という時、たいていは次のような話です:
- 「個人情報を扱うから、クラウドに置けない」
- 「システム変更には本店決裁が必要で、時間がかかる」
- 「監査部門の許可なしに、新しいツールは入れられない」
全部、嘘ではないけど、完全でもないという代物です。
実は、金融庁のレポートを読むと、「むしろ、この過剰な遵守姿勢がDXを遅らせている」と指摘されています。
金融庁が求めているのは、「何もするな」ではなく、**「リスクを管理しながら、新しいことをしろ」**です。
要は、ITガバナンスを整備して、透明性があれば、クラウドもAIも使ってOKということ。
「2025年の崖」が金融機関に突きつけたこと
2025年の崖という言葉、聞いたことありますか?
経産省が「2025年までに老朽化したレガシーシステムの刷新をしないと、日本企業の競争力が失われる」と警告したやつです。
この警告は、金融機関にも容赦なく降りかかっています。
メガバンクでさえ、「勘定系システムの全面刷新」に乗り出している時代です。
それでも「規制が厳しいから」と言い張る金融機関は、実は、経営判断の問題なんです。
規制そのものがDXを禁止しているわけではなく、「リスク管理の方法」がきちんと示されていれば、どんな新しい技術でも使える仕組みになっているんですよ。
金融機関が動き始めた「3つの認識転換」
実際に動いている金融機関を見ると、こんな転換が起きています。
① 「クラウド = 危険」から「クラウド = コンプライアンスの武器」へ
クラウド事業者(AWS、Azure)は、金融機関向けの「規制対応済みテンプレート」を用意しています。
つまり、「クラウドに置く方が、セキュリティ監査が簡単」という逆説が成り立つ。
② 「システム変更 = 大プロジェクト」から「小さく実験」へ
金融庁も「PoC(概念実証)」を推奨しています。
「この新しい技術、本当に使えるか」を小規模で試して、失敗から学ぶ方が、結果的にリスクが低いということです。
③ 「監査部門 = 禁止マン」から「リスク管理パートナー」へ
優秀な金融機関の監査部門は、「これはダメ」と言うのではなく、「こういうリスクがあるから、こう対応しましょう」と提案する立場に変わっています。
「規制の枠の中」で、実は最も攻めやすい
ここが重要なポイントです。
金融機関は、一見「縛られている」ように見えますが、実は**「ルールが明確だから、その枠の中では最も自由に動ける」**という特性があります。
民間企業では
- 「何をやっていいか」が曖昧
- 「事故ったらどうする」も決めてない
- 結果、「念のため、新しいことはやらない」という防衛ラインになる
金融機関では
- 「これをやる場合は、こうリスク対応する」が決まっている
- 「事故の責任は誰が取る」も明確
- 結果、「ルール通りやれば OK」という確度が高い
つまり、「規制」は、実はDXを安心して進めるための最高のガイドラインなんです。
今週、経営が決めること(1つだけ)
「金融庁のレポートを経営層で読む」
これだけです。
そして、その中で「当行は『規制が厳しい』という理由でDXを遅らせていないか」を問い直す。
具体的には:
クラウド利用
「規制で禁止されている」か、それとも「私たちが『念のため』禁止している」か?
AI/生成AI
「金融庁が禁止している」か、それとも「社内ルールが古い」か?
ガバメントクラウド利用
「金融機関は使えない」か、それとも「別の選択肢を探していない」か?
多くの場合、答えは「社内で勝手に厳しくしている」です。
金融庁は「攻めてください」と言っています。
「ただし、透明性とリスク管理の体制を整えてから」という前置きで。
その前置きは、実は「攻めるために必要なガバナンス」そのものなんです。
問いかけ
「規制が厳しいから新しいことができない」と現場が言った時、それは本当に「規制」が原因ですか?
それとも「経営判断の判断停止」に過ぎませんか?
来週の金曜日は、金融機関で実際に起きている「人手不足でDX担当が兼務で死んでいる問題」をセキュリティ側からどう解くかという話をします。
参考資料
- 金融庁「金融機関のITガバナンスに関する報告書」
https://www.fsa.go.jp/news/r3/20220630/it02.pdf - TwoStone「金融機関のDX促進:規制を超えるガイドライン」
https://twostone-s.com/columns/dx/finance/369/ - ExaWizards「金融DX:規制環境下での実践戦略」
https://exawizards.com/column/article/dx/dx-financial/ - 経産省「2025年の崖」
https://dxpo.jp/college/system/digital-transformation-2025-risk.html - ガバメントクラウドセキュリティガイド
https://guide.gcas.cloud.go.jp/general/security-tech