前回は、日本のDXの現状について「やる気はあるが、環境が整っていない」とお話ししました。
今回は、その「整っていない環境」の正体、現場の私たちの前に立ちはだかる「3つの見えない壁」について、
もう少し解像度を上げて切り込んでいきます。
この壁は物理的には見えませんが、プロジェクトが進もうとするたびに、
まるで透明なバリアのように私たちの足を止めます。
「なぜか決まらない」「なぜか協力が得られない」「なぜか誰もやりたがらない」。
その「なぜか」の正体を知ることが、突破への第一歩です。
「会議」という名の意思決定の壁
DX推進で最も消耗するのが、ツール選定でも開発でもなく、「社内調整」だという人は多いはずです。
何か新しいことを始めようとすると、稟議書が回り、会議が設定され、「持ち帰って検討」が繰り返されます。
合議制がDXと相性が悪い理由
日本企業特有の「合議制」は、リスク回避には有効ですが、スピードが命のDXとは致命的に相性が悪い。
「失敗しないこと」を最優先するあまり、誰も「GO」と言わないまま、時間だけが過ぎていく。
意思決定のサイズを小さくする
これを突破するには、「意思決定のサイズを小さくする」しかありません。
数千万円の全社導入を目指すから、役員会議が必要になる。
まずは数十万円、1部署だけの「実証実験(PoC)」として承認をもらう。
これを突破するには、「意思決定のサイズを小さくする」しかありません。
数千万円の全社導入を目指すから、役員会議が必要になる。
まずは数十万円、1部署だけの「実証実験(PoC)」として承認をもらう。
「失敗しても傷は浅い」状態を作ることで、意思決定のハードルを下げ、事実(データ)を作ってから次に進む。
「小さく始めて、事実で殴る」。言葉は悪いですが、これが硬直した意思決定を動かす唯一の解です。
「縦割り」という名のデータの壁
「営業部のデータと製造部のデータがつながらない」
「顧客IDが部署ごとにバラバラで統合できない」
これが「サイロ化」の正体です。
なぜデータが囲い込まれるのか
各部門がそれぞれのKPI(部分最適)を追いかけているため、データを共有するメリットよりも、
囲い込むメリットの方が大きくなってしまうのです。
「データを出すと、他部署から文句を言われるかもしれない」という防衛本能が働きます。
共通の敵を設定する
この壁を壊すには、精神論ではなく「共通の敵(課題)」を設定する必要があります。
「営業部のため」でも「製造部のため」でもなく、「顧客のクレームを減らすため」「競合に勝つため」という、
全部署が合意できる上位の目的を掲げること。
そして、データを繋ぐ役割を「情シス任せ」にせず、経営層直轄の横断チーム(DX推進室など)が
強権を持ってグリップすることが不可欠です。
「減点主義」という名の評価の壁
最も根深く、最も厄介な壁
そして最後の壁が、最も根深く、最も厄介です。
「で、それをやって失敗したら、誰が責任を取るの?」
多くの日本企業の評価制度は、いまだに「ミスなく遂行すること」が高く評価され、
新しい挑戦での失敗は「減点」されがちです。
DXは本質的に「実験」である
DXは本質的に「実験」です。最初から正解がわかるわけがない。
なのに、失敗がマイナス評価になるなら、誰も火中の栗を拾おうとはしません。
現場が「今のままでいいじゃん」と抵抗するのは、変化が怖いからではなく、
「頑張っても損をするだけ」という合理的な判断の結果なのです。
人事制度とDXはセットで変える
- 「成果」だけでなく「挑戦プロセス」を評価する。
- DX人材専用の評価枠(ジョブ型など)を設ける。
- 失敗を「ナレッジ(学習資産)」として称賛する文化を作る。
人が動かないのは、人が悪いのではなく、ルール(評価)が古いからです。
壁の向こう側へ
「意思決定」「縦割り」「評価」。
これらは一朝一夕には変わりません。しかし、誰かが「ここに壁があるぞ」と声を上げなければ、
永遠にそのままです。
DX担当者の本当の仕事
私たちDX担当者の仕事は、ツールを入れること以上に、この「壁の存在を可視化し、
ハンマーで叩き続けること」なのかもしれません。
次回は、これらの壁を突破するための具体的な武器、「クラウド・データ・AI」の設計論についてお話しします。
「攻め」のための技術を、どうやって安全に使いこなすか。ガバナンスとスピードの両立に挑みます。
次回予告
第3回:クラウド/データ/AIを”武器”に変える設計(ガバナンスとスピードの両立)
「統制」と「活用」は対立しない。攻めるためのガードレール(ルール作り)と、
モダンな技術選定の勘所について。